Q1.EcoGISとは

“Eco”とはエコシステム(Ecosystems)のことで,人間と自然の関係を研究する科学です.”GIS”とは地理情報科学(Geographic Information Science)のことで,地理空間的情報をコンピュータで管理,処理,サービスする技術であって,環境的,社会的現象を分析する科学でもあります.

“EcoGIS”とは,地球や地域の生態環境に関する情報と,地理や地質から人間生活までの地理情報を,集めて管理・分析し,さまざまな応用問題の解決に活用する環境指向的GISのことです.EcoGISは現段階で一つのソフトウェアやシステムを指すものではありませんが,本研究室の研究プロジェクトから生まれる研究成果を徐々にシステム化し,情報ツールとして作っていくことを考えています.


Q2.「持続可能な発展」と「持続可能な地域発展」と,なにが違いますか.

A.持続可能な発展の概念に関して,さまざまな議論が存在しています.その概念に反対する人さえ少なくありません.しかし,環境問題は人間社会が直面している最大の課題であることに,疑う余地はありません.それをもっとも実感できるのは,人間の生活の周りであって,われわれがいう「地域」であります.地域のスケールはさまざまですが,みんなが共通に意識をもてる領域として考えられます.村,県,州から大陸スケールまで考えてもおかしくありません.


Q3.「仕組みづくり」,「システムづくり」とは.

A.仕組みとは環境問題や地域社会の問題を解決するための政策や制度のことです.「システム」は本来,さまざまな意味がありますが,ここではそれらの政策や制度の作成,運用,管理を支援する情報システムや情報サービスのことを指します.


Q4.「EcoGISの開発と実証実験」とは,システム開発ばかりのことですか.

A.EcoGISは前述のように,一つの情報的な考え方に過ぎません.既存の地理情報システムを利用することも,新しいシステムの開発も含まれます.また,実証実験に関しては,GISのシステムを使わなくて,調査することもあります.「EcoGISの開発と実証実験を通して」を副題にしているのは,環境と情報を融合した持続可能な地域発展へのアプローチを明確にしたかったからです.


Q5.実証実験って,どんなことをやるんですか.

A.たとえば,衛星画像や地図一枚を住民,子供,行政担当者にみせて,問題の理解にどのような効果があるか,を調査するのも実証実験です.また,応用システムが作られて,その効果を評価するのも実証実験です.さらに既存の地球環境問題に対する制度や取り決め(たとえば京都議定書)の実施のために,地理情報をどのように応用するかを考えるのも実証実験です.ですから,実証実験を通して,われわれの研究開発をいっそう社会に応用するように指向しています.


Q6.厳研では何を学べるんですか.

A.あなたの知らない世界がここにあり,学べるものはたくさんあります.しかし,この質問はSFCにおいて,あまり適切ではありません.研究プロジェクトは研究のためのプロジェクトで,勉強のための授業ではありません.つまり,研究プロジェクトと授業は違うのです.皆さんにはこのことをきちんと理解してほしい.授業の場合,先生が一方的にしゃべって,学生が一方的に聞いておしまいのことが多い.そのなかで既存の知識を学んだりします.研究プロジェクトは,未解決の問題を取り上げて,研究するところです.ここでは,毎週決まった時間に,決まった内容のことを教えていません.

厳研では,フィールドワーク(地域調査),チームワーク(プロジェクトチーム),スキルワーク(GIS技術トレーニング)を通して,自分で問題を発見し,それをプロジェクトに立てて,地理情報技術や調査技術を持って解決する能力を育てています.そのなかで,GIS技術,フィールドワークの方法,チームワークの方法,論文の書き方,プレゼンテーションの方法,プロジェクトの企画・運営・まとめの方法どなどが学べます.


Q7.厳研にはGISや情報系の人ばかりですか.

A.いいえ,厳研の現在の履修者構成を見ると,総合政策系と環境情報系が半分ずついます.ばりばりプログラムを作れる人もいますし,アンケート調査,住民インタビューを得意とする人もいます.そこは面白いのです.問題を知っているひとと,ツールを使う人と,ツールを作る人とチームワークにすると,あなたの能力は倍以上に伸ばすことができます.またツールづくりを得意とする人も,応用問題を知っている人と手を組むと,実践の場を得て,早く腕を評価してもらうことができます.ただし,研究ではGISを使わなくても,GISの必要性や有用性に対する理解は欠かせません.


Q8.GISができなくても,厳研に入れますか.

A.はい.問題はありません.やる意欲さえあれば,研究室に入ってから,トレーニングコースがあります.それをやればすぐに上達できます.また,プロジェクトに入ると,さまざまな知識を指導してくれる先輩がいます.先生も丁寧に一人一人の勉強と研究を指導します.重要なのは自分が積極的に,前向きに取り組むことです.


Q9.厳研では,GISや衛星画像をやっているのはわかるけど,それ以外なにもないのではないでしょうか.

A.そのようにみられるのはとても残念です.確かに私たちは地理情報(衛星,地図)をよく使います.情報計測,管理,分析の最先端を走っている現代情報技術の重要な分野だから,手放すことはありません.なかでも研究すべき課題も多いし,学生の就職にもとてもよい効果をもたらしています.

実際,私たちが地図や衛星画像に対する見方は,情報工学と違います.私たちはデジタル画像や地図の数値が表している環境や社会の状態または変化の過程,人間活動とのかかわり方を見ています.自然や社会のことというと,基本的には物質の循環,エネルギーの流れと情報の流通で代表されます.それは地図や衛星画像上で,そして現地でどのように発生し,循環または流れているかを読み取って,問題の解決や社会の発展に役に立つようにするのが目的です.そのために,プロジェクトに応じた専門知識を勉強しなければなりません.そういった知識は研究会の中,外部との会議,フィールド,独学などを通して,勉強してもらっています.各プロジェクトのホームページに参考書も掲載されています.また,研究室ホームページに推薦図書も掲載しています.


Q10.厳研では必ずプロジェクトやチームにはいらなければいけませんか.

A.はい,少なくとも最初の1学期の間に,どれかのプロジェクトまたはチームに入って,GISトレーニングを先輩の指導のもとで,受けなければなりません.それから研究室の方針と一致するコンセプトがあって,二人以上の参加があれば,新しい研究プロジェクトを立ち上げることができます.ただしプロジェクトの参加者は1学期だけの履修は認めません.新しいプロジェクトを企画し,成果を出すまでには,時間がかかります.継続される保障のないプロジェクトは研究室であまりサポートできません.


Q11.厳研でもプログラミングが必要ですか.

A.GISはもともと地理情報システムの略称であって,コンピュータシステムのことです.いまはGISソフトウェアが発達し,ユーザ独自にプログラムを開発する必要性が減っています.複雑なシステムは学生や素人では作れない時代となっています.しかし,インターネットの普及によって,より便利で,より身近な情報サービスを求める声が応用分野からあがっています.GISの分野では,WebGISやGoogle
Mapsをベースとしたアプリケーションが今後,爆発に増えると思われます.そのために,厳研では,地域情報の点検・評価・知識化,そして地域情報サービスを中心に,Webベース,Googleベースの技術を用いたインターネットツールを開発しています.


Q12.厳研では,プログラミングを学べますか.

A.厳研には,ばりばりプログラムを作っている学生もいます.また,プロジェクトではプロフェショナルなプログラマとの連携も強い.この人たちを中心に開発チームを作っています.初心者でも熱意さえあれば,一緒に学び,一緒に開発に参加することができます.さらに,応用問題を知っている人と一緒に活動するため,すぐにでも使えるネタは尽きません.


Q13.厳研に入るには履修条件がありますか.

A.いま現在,設けていません.しかし,2年終了時までに「環境情報概論」,「環境評価論」,「地理情報システム論」,「リモートセンシング基礎」,「環境リモートセンシング」,「空間分析AまたはB」を履修し,3年終了時に「空間モデリング」,「フィールドセンシング」,「地球設計論」などが履修されるのは望ましい.


Q14.厳研はきついと聞いていますが,ほんとうですか.

A.厳研では,春学期,秋学期とも,体系と目標をたてて,教育・研究プロジェクトを進めています.履修者にはもちろん研究室活動を優先してほしいですが,適切にサークル活動とアルバイトをするのも推奨しています.時間を有効に使えば,研究室活動もサークルもアルバイトも成り立つはずです.一学期に発表2~3回程度,リポートも一つだけのため,重い負担とは思いません.計画的にプロジェクトを進めるのが肝心です.特別にイベントあるときを除いて,サークル・バイトの時間を奪うことはありません.そのかわり,月曜日の研究会のあとに予定を入れることは遠慮してもらっています。また、事前に予告した研究室の公式イベントには必ず参加しなければなりません.


Q15.厳研のプロジェクトは先生のやりたいことばかりで,学生はその手伝いにさせられているのではありませんか.

A.これは厳研の教育・研究方針であって,そのように捉えられてもしかたありません.この質問は前半が正しくて,後半は正しくありません.

「正しい前半」:研究室や研究プロジェクトは教員が自分の研究経験と予算支援によって成り立っています.先生は自分のやりたいことを研究室のプロジェクトにしなければ,研究室としての意味はありません.また,研究室を運営するためには,費用がかかります.それを支援してくれるプロジェクトは大体先生の知識や成果に基づいてできています.それに関する研究を続かないと,研究室を継続させることもできません.

「正しくない後半」:学生は研究室のプロジェクトに参加することで,実践の場と,資金面の支援を得ることになっています.プロジェクトが要求する成果を必ずしも学生から出してもらうように要求していません.

「正しい捉え方」:研究プロジェクトも学生の研究興味も合致するときに,大きな成果を出すことができます.教員にも学生にもプレシャーがあって,やりがいも実感できます.ただし,基本的には学部生には大きなプレシャーをかけることはありません.自分のペースにあわせて勉強し,好きな研究のネタが見つかれば十分と評価しています.


Q16.厳研はほかの研究室とどこが違いますか.

A.厳研は持続可能な「地域」発展に関する政策系,地理情報技術系,環境デザイン系の境界領域にあります.ここでは,

1)厳研は特に「地域」に着目して,地域の持続可能な発展の仕組み・システムを研究しています.

2)地理情報技術を基本にしながら,環境問題を総合政策と環境情報から実践的に取り組んでいます.

3)「フィールドワーク」,「チームワーク」,「スキルワーク」というフレームのもとで研究・教育を体系的に進めています.


Q17.厳研が育てる学生はどんな人でしょうか.

A.厳研は,SFCの政策・メディア研究科の中ではEG(環境ガバナンス)に所属しています.このプログラムのなかでも,さらに環境問題,地域問題に対して,分析にアプローチを取る陣営にいます.このグループの研究室で育てる学生は,情報分析的スキルをもった,都市・地域の計画,環境問題の対策・政策の策定,環境ビジネスのプランが立てられるような,高度な人材となります.就職の分野でいうと,シンクタンク系,公務員系,情報技術系,環境・建設コンサルタンツ系,NPOや国際機関系,研究機関系になるでしょう.


Q18.厳研学生には対応する資格はあるでしょうか.

A.残念ながら,この分野は建築や情報処理と違って,これという資格は日本にはありません.海外ではプラナーという資格が代表的です.


Q19.厳研の卒業生はどこに就職していますか.どんな就職先が考えられますか.

A.国家公務員,シンクタンク,大手マスコミ,環境・建設コンサルタンツ,地理情報関連会社,大手コンピュータメーカー,証券会社,大学院進学など,さまざまですが,みんな一流の就職先です.ニートとなった人はいません.今後もこのような分野には強いでしょう.


Q20.厳研では中国語が必須ですか.

A.いいえ,そうではありません.厳研では英語重視です.しかし,中国語のできる人も大歓迎です.毎年のフィールドワークは中国語のトレーニングの場としても使われています.中国の環境問題,開発問題に興味ある人は,いつでも交流に来てください.


Q21.厳研では,学生の勉強・研究にどんな支援体制があります.

A.研究会を履修してくれた学生に,一人一人の興味・個性に合わせて,研究方向,勉強資料をアドバイスしています.プロジェクトの発展に貢献してくれた人には,フィールドワーク,学会発表,展示会参加の交通費を補助しています.また,勉強に必要な資料・機材も殆ど自由に購入できます.


Q22.「厳」先生は厳しいですか.

有名無実ですね.とても温厚で学生に優しく接しています.ただし,研究や勉強に関してはかなり厳しいようです.